こんにちは。司法書士の錦織(にしこり)です。
住宅ローンを完済したら、まず行う手続きの一つが『抵当権の抹消登記』です。
今回は、その中でも少しややこしい「金融機関が合併した場合」についてお話しします。
登記の現場でもよくある質問ですので、これから住宅ローンを完済される方や、不動産の名義変更を考えている方の参考になればと思います。
住宅ローンを組むと、通常、ご自宅(建物と土地)には抵当権が設定※されます。
これは、金融機関が「もし返済ができなくなった場合」に備えて、不動産を担保に取っている状態です。
※もう少し正確に言うと、住宅ローンを組む人と金融機関が抵当権設定契約を結び、その内容に基づいて司法書士が法務局に登記を申請します。
そして、住宅ローンを完済すると、この抵当権は消滅するので、「抵当権抹消登記」を申請します。
ここからが本題です。
住宅ローンの返済中に、銀行などの金融機関が合併することがあります。
「この場合、何かしら登記申請をする必要があるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
実は、登記申請が必要かどうかは、抵当権者が「存続会社(=合併後も残る会社)」なのか、「消滅会社(=合併でなくなる会社)」なのかによって異なります。
では、それぞれの場合を見ていきましょう。
吸収合併が行われると、消滅会社のすべての権利・義務は存続会社に承継されます。
債権(住宅ローン債権)が消滅会社から存続会社に引き継がれると、その債権に付随する抵当権も同じように移転します。
そのため、抵当権者が消滅会社であった場合には、抵当権移転登記が必須です。
一方で、もともと存続会社が抵当権者であった場合には、合併によって抵当権者が変わることはありません。
したがって、抵当権移転登記は不要です。
抵当権者が「存続会社なのか」「消滅会社なのか」によって、手続きが異なるという点がポイントです。
具体例として、三菱UFJ住宅ローン保証株式会社(抵当権者)をみていきましょう。
2023年7月1日、
「三菱UFJ住宅ローン保証株式会社(存続会社)」が
「三菱UFJローンビジネス株式会社(消滅会社)」を吸収合併しました。
そして、合併日に、三菱UFJ住宅ローン保証株式会社は社名(商号)を変更して、「三菱UFJローンビジネス株式会社」という社名になりました。
ではこのケースで、抵当権移転登記は必要でしょうか?
少しややこしいですが、どうなると思いますか?
答えは「不要」です。
三菱UFJ住宅ローン保証株式会社は、合併における存続会社であり、合併により法人格は継続しています。
社名が変わった(三菱UFJ住宅ローン保証株式会社⇒三菱UFJローンビジネス株式会社)だけで、会社自体は同一だからです。
見た目は「会社が入れ替わった」ように感じるかもしれませんが、実態としては「社名が変わっただけ」なので、抵当権者は変わっていません。
よって、抵当権移転登記は不要です。
今回は、合併後に存続会社(三菱UFJ住宅ローン保証株式会社)が社名(商号)を変更し、その新しい社名が消滅会社(三菱UFJローンビジネス株式会社)と同じであったため、少し混乱を招いたかもしれません。
このように、「合併」と「社名変更」が同時に起こると、書類上では別会社のように見えるため、注意が必要です。
抵当権移転登記の必要性は、下記の図のとおりです。
| 抵当権者 | 合併後 | 抵当権移転登記の要否 |
|---|---|---|
| 存続会社 | 会社が存続 | 不要 |
| 消滅会社 | 会社が消滅 | 必要 |
抵当権者の社名(商号)が変わっていても、会社が存続している限り、抵当権移転登記は不要です。
「合併」と「社名(商号)変更」が重なると、専門家でも少し混乱することがあります。
住宅ローンの完済は、人生の大きな節目です。
手続きに少しでも不安を感じたら、早めにご相談ください。
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