SNSの普及により、個人同士での不動産売買が以前よりも容易になりました。
しかし、不動産会社が仲介に入らない取引は、通常の売買よりも慎重に進める必要があります。
(不動産会社が関与する場合には、宅地建物取引士が**重要事項説明書(重説)**を作成し、権利関係や法令上の制限、抱えているリスクを事前に説明してくれます。)
個人間売買ではこの「プロのチェック」が入りません。
そこで今回は、個人間の不動産売買で気をつけたいポイントを、特に「登記」の視点でお話ししようと思います。
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Aさんは熱海に所有していた別荘を「若いご夫婦」に売却し、令和7年6月2日に売買代金800万円を受け取り、別荘の引渡しも済ませました。
しかし、「若いご夫婦」は 自己名義の所有権移転登記を行わないまま、時間が経過してしまいます。
一方、大金を手にしたAさんはギャンブルにはまり、結果として多額の借金を抱えてしまいました。
そこでAさんは、登記名義が自分のままであることを利用し、令和7年9月9日、別荘を〔自分の所有物だ〕と偽って、『動物好きのご夫婦』に再び売却してしまいます。
『動物好きのご夫婦』は購入後、速やかに 自己名義の所有権移転登記を済ませました。
Aさんは受け取った代金で借金の全部を返済しました。
ここで問題です。
熱海の別荘の所有者は、「若いご夫婦」と『動物好きのご夫婦』のどちらになるのでしょうか?
熱海の別荘の所有者は、所有権移転登記をした『動物好きのご夫婦』です。
不動産の取引では、登記をしなければ、所有権を第三者に対して主張することができません(民法177条)。
「若いご夫婦」は、Aさん(売主)に対しては〔所有権を取得した〕と主張できます。
→ これは売買契約に基づく〔当事者間〕の関係です。
しかし、登記をしなかったため、第三者である『動物好きのご夫婦』には所有権を主張できません。
一方で、『動物好きのご夫婦』は、自己名義の登記を完了しているため、「若いご夫婦」(第三者)に対して、自分の所有権を主張できます。
登記を備えていないと、どれほど〔自分が先に買っていた〕と主張しても、第三者には対抗できないという典型的なケースです。
もし事例1のケースで、『動物好きのご夫婦』が、〔Aさんが若いご夫婦へ先に売却〕していた事実を知っていた(=悪意だった)としたらどうなるでしょうか。
この場合も結論は変わりません。
別荘の所有者は、自己名義の所有権移転登記をした『動物好きのご夫婦』です。
ここで重要なのは、第三者が 善意(=知らなかった)か悪意(=知っていた)か は原則として関係がないことです。
登記がない買主は、どれだけ「自分が先に買っていた」と主張しても、後から登記をした第三者に所有権を主張できません。
気持ちとしては、「先に買った若いご夫婦が報われてほしい」と私は思います。
しかし、「若いご夫婦」は不動産を購入したにもかかわらず、所有権移転登記をしなかったという致命的なミスをしてしまっています。
第三者に登記が入ってしまった時点で取り返しがつきません。
不動産の個人間売買では、買主自身がリスク管理を徹底する必要があります。
その中でも重要なことの一つが、購入後すぐに〔自己名義の所有権移転登記〕を行うことです。
登記をしなければ、どれだけ先に不動産を買っていても、後から登記をした第三者に所有権を主張できないという重大な不利益を受けます。
不動産トラブルを防ぐためには、〔売買代金の支払い〕と〔登記申請〕を同時に行うことが絶対に欠かせません。
個人間売買で不明点なことがありましたらお気軽にご連絡ください。